魚部誕生の経緯
魚部は、北九州高校にある「部活動」の一つです。1998年4月、当時部員が一人もいなかった理科部に有志10名が仮入部して、6月の文化祭を盛り上げようということから、活動が始まりました。彼らは、地域を流れる紫川に自分たちが入ってどんな魚がいるのかを調べました。そして、本番の文化祭で紫川の魚たちを見てもらおうという企画を実施したところ、思った以上に大好評でした。これに気をよくした「有志」がそのまま残って活動を続けたのです。化学的な研究をしていた以前の理科部とちがって、自分たちは川で魚ばかり採っている・・「そんな俺たちは理科部じゃなくて、魚部(ぎょぶ)だ!」という初代魚部員たちの声から、日本で唯一の部活動「魚部」は誕生しました。
1.活動の理念
魚部では「知ること、伝えること、守ること」の3つを活動テーマとしています。魚部の高校生たちは実際に様々な水辺に入り、地域の自然環境に体験的に関わる中で、多くの発見や学びを重ねていきます。さらに、そこで得た成果を眠らせずに、市民啓発や環境保全に生かすために、さまざまな取り組みを展開していきます。3つの活動テーマをつなげていく活動、それが魚部の活動です。
知られないまま点在している地域の貴重な自然が、知られないまま消失していく現実があります。それを少しでも避けたい、魚部が知った貴重な自然だけでも何とか伝えて、関係する人々が知恵を出し合って守っていく方法を考えてもらいたい、そんな気持ちで活動を続けています。
2.知ること
まずは「自分たちが地域の水辺の現状を知る」ことから魚部の活動は始まります。魚部の高校生たちも、専門家ではない顧問教諭も、何か予備知識を持っているわけではありません。
身近な水辺、つまり河川や溜め池、干潟の中に実際に入って、何がいて何がいないのか、ひたすら調べていくのが“魚部流”です。その調査場所は、全く恣意的です。言い換えれば、積み重ねていく体験をもとにした「想像」と「勘」です。自分たち自身が発見し、気付いていく喜びや楽しさを大事にしたいという考えから、事前に調査場所を誰か詳しい方から教えてもらうということは、まずしません。この川はどうなのだろう、あそこの池はどうなのだろうという調査場所を選び決めることも、「知ること」の醍醐味でもあり、ギョブる(野外調査をする意の魚部内語です)ワクワク・ドキドキ感の大事な構成要素なのです。
誰かが調べた場所ではないからこそ、魚部ならではの地域の貴重な自然の発見や現状の把握ができるのだと思います。
調査エリアは、基本的に身近な水辺としていますが、その範囲は調査・研究テーマによって異なります。例えば水生昆虫調査の場合は、県内の水生昆虫相を明らかにするという目的があるので、福岡県内のみに限定して調査をしています。また、シマドジョウ属の調査では分布の状況を踏まえて、山口県や大分県などの近隣県を含めて調査エリアを設定するなど、様々です。
このような「知ること」を目的とした魚部の調査活動は、高校の部活動であるため、休日にしか行うことはできません。さらに、現代の高校生はおそらく皆さんが思っている以上に忙しく、土曜日や長期休業中も課外授業や模擬試験もあります。それらを除いて空いている日は、ほとんどギョブっている(調査活動をしている)といっても過言ではないかもしれません。
また、調査時期には春夏秋冬を問いません。寒い時期だからギョブらない、ということはありません(もちろん寒くて水は冷たいですが)。越冬生態など、寒い時期だからこそ得られる知見やデータもあるからです。
このようにして魚部誕生から10年間、1年間に50回前後の調査を継続的に行い、地域の水生生物や水環境の現状について多くのことを知りました。
2007年夏に魚部は創部10周年記念誌として、『魚BOOK(ギョブック)』を刊行しました。
魚部のこれまでを総括するような内容の読み物として作成したのですが、その中に「いつまでも残したい、魚部が出会った福岡の貴重な水辺」と題したページがあります。これは、まさに知られないまま「点」として残っている貴重な水辺を、私たちが誇るべき豊かな自然として知ってもらいたいと企図したページでした。こんな場所が福岡にもまだあるんだ、次世代にも残していくべき自然の財産ではないかと、魚部が体感した思いを少しでも共有ほしいと考えたのです。
多くの水生生物に興味を持つ魚部の調査活動から、次の二つを選んで少し詳しく紹介します。
①九州産イシドジョウの調査研究
イシドジョウは、島根県西部と広島県西部、山口県、そして九州では福岡県北部のわずか4水系の一部のみに局所的に生息する、絶滅が非常に危惧されるドジョウの一種です(環境省版レッドデータブック「絶滅危惧ⅠB類」)。生息情報が少なく、知られないまま生息地が失われつつあることが心配されています。それは、1990年代に入って初めて確認された福岡県の九州産イシドジョウの場合にはなおさら当てはまり、福岡県では最も絶滅が危惧される「絶滅危惧ⅠA類」とされています。
・北九州地域における分布調査
まず保護に向けた第一歩として、魚部では北九州地域における分布調査を1999年度~2000年度にかけて実施しました。生息可能だと思われる場所を地図上で選び出し、その後現地に出かけて目視や採集によって生息の有無を確認するという、シンプルな調査方法です。4水系20数地点で生息調査を行った結果、3水系8地点での生息を確認しました。ほとんどが未知の生息地であり、この貴重な調査結果を報告書にまとめ、関係諸機関に渡しました。
、「外来種」といった常設展示からテーマをしぼり込んだ企画展を、これまで8回実施しています。期間中には、魚部の高校生たちが、企画展のテーマに合わせた生き物講座を開催し、毎回多くの市民が参加してくれています。
さらに水環境館以外にも、2006年夏の北九州市立自然史・歴史博物館の特別展『昆虫展ワールドカップ』への展示参加や2007年夏の滋賀県立琵琶湖博物館での魚部展示など、新たな取り組みにも挑戦しています。
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